~ ADA・日本歯科放射線学会の指針から読み解く ~
歯科医院でレントゲンを撮影する際、以前は当たり前のように重たい鉛のエプロンを身に着けていました。しかし最近、多くの歯科医院でエプロンを使用しなくなったことに気づいた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「防護服なしで本当に安全なの?」「子どもや妊婦でも問題ないの?」「法律的に大丈夫?」——こうした疑問は自然なことです。結論からお伝えすると、現代の歯科レントゲンにおいて防護服を着用しないことは、科学的根拠に基づいた適切な対応であり、法律上も問題ありません。
国内外の専門学会が「歯科レントゲン撮影における防護エプロンは原則不要」と明確に示しています。その背景には、いくつかの科学的根拠があります。
根拠① デジタルレントゲンの普及による被曝量の大幅な低減
かつてのフィルム式レントゲンに比べ、現在主流のデジタルレントゲンはセンサーの感度が格段に高く、少量の放射線でも鮮明な画像を得られます。被曝量はフィルム時代の数分の一にまで低減されています。
根拠② ADA(米国歯科医師会)の2024年最新ガイドライン
ADAの専門家パネルは、放射線撮影に関する約100の論文・ガイドライン・規制を精査した結果、「歯科撮影時の鉛エプロンおよび甲状腺カラーの使用は推奨せず、日常的な使用は中止すべきである」と結論づけました(2024年2月1日、JADA誌に発表)。
根拠③ 日本歯科放射線学会の指針(2015年)
日本歯科放射線学会防護委員会も、「歯科X線撮影における防護エプロンの実効性はほとんどなく、患者の安心のために使われている」としたうえで、「撮影に失敗して再撮影するより、鉛エプロンを使用しないほうがリスクは低い」と指針で示しています。
ポイント:ビーム照射範囲の限定技術
現代の歯科レントゲンでは、X線のビームを必要な範囲だけに絞る「コリメーション」技術が標準装備されています。これにより、撮影対象以外の部位への散乱線が極めて少なくなっており、エプロンで遮蔽する意義がほぼなくなっています。
放射線と聞くと不安になりますが、実は私たちは日常生活の中で自然放射線を常に受けています。歯科レントゲンの被曝量を、身近な放射線と比較してみましょう。
| 放射線源 | 被曝量(mSv) | 比較 |
|---|---|---|
| 歯科デンタルX線(1枚) | 約0.01 mSv | 自然放射線の約1日分 |
| 歯科パノラマX線(1回) | 約0.01〜0.03 mSv | 自然放射線の1〜3日分 |
| 歯科用CBCT(1回) | 約0.05〜0.5 mSv | 自然放射線の数日〜1ヶ月分 |
| 東京〜ニューヨーク往復フライト | 約0.1〜0.2 mSv | 歯科デンタルX線の10〜20回分 |
| 胸部X線(1回) | 約0.06 mSv | 歯科デンタルX線の約6回分 |
| 日本人の年間自然被曝量 | 約2.1 mSv | 歯科デンタルX線の約210回分 |
このように、歯科レントゲン1回の被曝量は自然放射線のわずか1日分程度であり、通常の診療範囲で健康被害が生じるレベルには到達しません。
特に心配されることの多い妊婦さんとお子さんについて、現在の医学的な見解を整理します。
歯科レントゲンの撮影部位は口腔(頭部)であり、腹部から十分に離れています。被曝量も極めて微量であるため、胎児への影響は医学的には心配ないとされています。ADAの2024年ガイドラインでも、防護服の不使用に関する推奨は「年齢や健康状態に関わらず、すべての患者に適用される」と明記されています。ただし、不安がある場合は歯科医師にご相談ください。ご希望に応じて防護エプロンの着用にも対応できます。
小児の場合も、歯科レントゲンの線量は安全基準の範囲内です。矯正治療の診断にはレントゲン撮影が不可欠であり、早期に正確な診断を行うことが治療の精度を高めます。現代のデジタル機器は低線量で鮮明な画像を得られるため、お子さんにもより安全な検査環境が整っています。
意外に思われるかもしれませんが、防護服を着用することでかえってリスクが生じるケースがあります。
リスク① 画像への影響と再撮影の必要性
鉛エプロンが撮影範囲に重なると、画像にエプロンの影が映り込んでしまいます。その場合、診断に必要な情報が得られず、再撮影が必要になります。ADAが防護服の中止を推奨した理由の一つがまさにこの点です。再撮影は本来不必要だった追加の被曝につながるため、エプロンを使用しないほうがトータルの被曝量が低くなる場合があります。
リスク② 自動露出制御(AEC)への干渉
現代のデジタルレントゲン装置には、撮影対象に応じて自動的にX線量を調整する機能(AEC)が搭載されています。鉛エプロンがセンサーの範囲にかかると、装置が「遮蔽物がある」と判断して線量を自動的に増加させてしまう場合があり、これもかえって被曝量を増やす原因となります。
この記事の内容は、以下の学術文献・公的ガイドラインに基づいています。
参考文献・ガイドライン一覧
1. ADA Council on Scientific Affairs (2024)「Optimizing radiation safety in dentistry: Clinical recommendations and regulatory considerations」Journal of the American Dental Association (JADA), 2024年2月1日発表
2. 日本歯科放射線学会 防護委員会 (2015)「歯科エックス線撮影における防護エプロン使用についての指針」2015年9月
3. European Commission (2004)「Radiation Protection 136: European guidelines on radiation protection in dental radiology」(日本歯科放射線学会翻訳版)
4. ICRP(国際放射線防護委員会)Publication 103「The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection」
5. Dental Tribune (2024)「ADA announces major changes to radiography safety protocols」
患者さんからよくいただくご質問にお答えします。
違法ではありません。歯科医療に関する法令や放射線安全管理のガイドラインにも、歯科レントゲンにおける防護服着用の義務は定められていません。被曝量が極めて少なく、防護服の実効性がほとんどないことが科学的に示されているためです。
歯科レントゲンの撮影部位は頭部であり、腹部から十分に離れています。また被曝量は自然放射線の約1日分程度と極めて微量であるため、胎児への影響は医学的に心配ないとされています。ご不安な場合は担当歯科医師にご相談ください。
はい、ご希望に応じて対応いたします。ただし、エプロンが撮影範囲に重なると再撮影が必要になる場合があることをご理解いただいたうえでご相談ください。
矯正治療では診断や経過観察のためにレントゲン撮影を複数回行いますが、通常の診療範囲では累積被曝量が健康被害を懸念するレベルに達することはありません。当院ではデジタルレントゲンを使用しており、必要最小限の撮影で正確な診断を行えるよう配慮しています。
この記事のポイントを整理します。
ADA(2024年)と日本歯科放射線学会(2015年)は、歯科レントゲン時の防護服(鉛エプロン)の使用中止を推奨しています。デジタルレントゲンの普及とビームの限定技術により、被曝量はフィルム時代から大幅に低減されました。歯科デンタルX線1回の被曝量は約0.01mSv(自然放射線の約1日分)と極めて微量です。防護服がかえって画像に影響し、再撮影(=追加被曝)につながるリスクもあります。妊婦さん・お子さんを含む全ての患者に対して、防護服なしの撮影は科学的に安全とされています。
院長 上野 聡(日本矯正歯科学会認定医)からのコメント
「レントゲン撮影への不安は患者さんにとって当然のことです。当院では最新のデジタルレントゲンを導入し、必要最小限の撮影で正確な診断を行うよう努めています。防護服に関するガイドラインの変更は、技術の進歩と科学的根拠に基づいたものです。この記事が、安心して歯科治療を受けていただくための参考になれば幸いです。ご不明な点はいつでもお気軽にお尋ねください。」
レントゲンや歯並びについて気になることがあれば、お気軽にご相談ください。つくば市のうえの矯正歯科では、初診相談を無料で承っています。レントゲン撮影の安全性についてのご質問も、お気軽にお声がけください。
矯正相談はお電話またはWebから無料でお申し込みいただけます。
監修:院長 上野 聡(日本矯正歯科学会認定医)|うえの矯正歯科
土浦日本大学高等学校卒業。日本大学歯学部卒業後、日本大学歯学部付属歯科病院矯正科に勤務。日本矯正歯科学会認定医取得。2009年、生まれ育ったつくば市の高橋矯正歯科クリニックに勤務医として参画し、2013年に院長就任。小児矯正・インビザラインを専門的に研究・診療し、歯科医師向けセミナー(マイオブレース・EF-Line・インビザライン・小児矯正不正咬合予防)を多数受講。国際誌(Int J Oral Maxillofac Surg、Eur J Orthod)への論文掲載実績あり。矯正歯科と予防歯科の専門医院として、つくば市の地域医療に貢献し続けている。